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東京高等裁判所 昭和41年(う)382号 判決

控訴人・被告人 株式会社島田製作所 外一名

弁護人 高橋諦 外一名

検察官 木村喜和

主文

本件各控訴を棄却する。

当審訴訟費用は全部被告会社の負担とする。

理由

本件控訴の趣意は被告会社および被告人の弁護人高橋諦、同宮本佐文各作成名義の控訴趣意書記載のとおりであるから、これらをここに引用し、これに対し一件記録を精査し、かつ当審における事実取調の結果を参酌した上次のように判断する。

高橋弁護人の控訴趣意に対する判断

所論は多岐にわたるのでこれらを原判決判示各事実に直接関係するものと、その他に分けて次に判断する。

第一、原判決判示第一の事実に関するもの、

原判決判示第一の事実について原判決が引用する関係証拠(ただし原判決引用の証拠中証人高杉満寿男とあるは証人高須満寿男の誤りと認める。)を綜合すれば次の各事実を認めるに足りこの認定を覆すに足りる証拠はない。即ち右関係証拠によれば、

(一)  有限会社旭化学工業所(代表取締役清水巌)は昭和三三年一〇月より昭和三五年末頃までの間株式会社島田製作所よりゴルフ用シヤフトのメツキ加工の委託を受け、これがメツキ加工を為した上右製品を被告会社に納入したこと、

(二)  右加工の材料である未メツキ加工のシヤフトはすべて被告会社から旭化学工業所に渡されていたこと、

(三)  昭和三三年一〇月より昭和三四年三月末まで被告会社は右旭化学工業所内の製造所について物品税法第一五条の製造開始申告を所轄税務署にしていなかつたこと、

(四)  右旭化学工業所より被告会社に納入されたメツキ加工済のゴルフ用シヤフト中後に説明する所謂表分については被告会社において物品税の申告(免税の手続)をしたが、その余の原判示数量のシヤフト所謂裏分については右旭化学工業所からも被告会社からもいずれも所轄税務署に対し何等物品税法上の申告が為されていなかつたこと、

(五)  右被告会社において物品税の申告をする分(表分と称していたもの)については各会社の正規の帳簿に記載し、また納品書等を使用し、加工賃の支払いも手形等によつたが、物品税に関する申告をしない分(裏分と称していたもの)については各会社の正規の帳簿に記載しないのは勿論、納品書その他その物品の存在を明らかにするような書類を作らず、その加工賃はすべて現金で支払われていたこと、

等の事実を認めるに足り原判示第一事実は冒頭の事実を含めてその証明は十分である。

所論第四点の一、第五点の一、二、法令違背の主張について

所論に基き案ずるのに本件に関する物品税法は税の徴収という特別の目的のために同法第六条のいわゆる「看做す」規定を設けたのであり、この規定の適用のある場合にあつては物品税法上その製造を委託したものが当該物品を製造したことになるのであつて、事実上何人が同物品の製造に携わつたかを問わない。そしてその製造者と看做されたものが、製造者として法の定めるところに従わなければならないのであり、これに従わない場合に通例の製造者と同様に法でこれに対する処罰を定めたからといつて何等憲法第三一条、同第三九条、同第八九条に違反するところはない。この理は右物品税法第六条の規定の性質を如何なる意味に解するかによつて異なるものでもなく、(所論にいう法第六条第四項の規定が刑罰法令でないという意味は必しも明らかでないが、それが、同法条により看做された製造業者には如何なる場合にも刑罰を科せられないという意味であればそれは法の解釈を誤つたものであつて左袒し得ない。)また右は被告会社の法令違反自体に科せられた刑事責任であつて本件シヤフトの事実上の製造者である清水巌の刑事責任が被告会社等に転嫁されたものでもなく、これを罰するのに原判決挙示の規定以外所論主張のような両罰規定の存在を要するものでもない。またかく解することをもつて刑事法理論を無視した解釈であるとすることもできない。この点の所論はいずれも理由がない。次に本件が物品税法第六条にいわゆる「看做す」規定の適用のある場合であるか否かにつき検討する。

被告会社が同法条に定める第二種の物品であるゴルフクラブ、同ゴルフクラブ用シヤフトの販売を業とする者であることは証拠により明らかであり、また被告会社と旭化学工業所との間には前示認定(一)(二)の関係があることが認められるのであるから同法条の適用があるといいうるためには右未メツキのシヤフトにメツキ加工をすることが右シヤフトの製造に該当することを要することは勿論である。ところで物品税は消費税であるから、製作物が消費者により使用又は消費される状態になつた時をもつて物品税法上の製造と解すべきであり、外観上は一応使用しうる程度にでき上つていても直に同法にいう製造と解すべきではないが、又一方完成品か部分品かによつても同法の精神に従い、個々の物品の性質に応じ製造されたものであるか否かを決することを要する。しかして漆器又は家具は装飾のため彫刻、蒔絵、又は上絵を施さずとも一応使用しうる状態にあるが、特に同法第六条第一項が漆器又は家具に装飾のため彫刻、蒔絵又は上絵を施すときはこれをもつてその物品の製造と看做し、また同法条第二項が化粧品等の物品を容器に充填し、又は改装するときはいずれもこれをその物品の製造と看做す旨規定している同法の精神に照せば、本件の如き原材料であるメツキ前のシヤフトに物理的化学的変化を加えてメツキ加工をするときは、このことにより右シヤフトは直にゴルフ用具であるゴルフクラブの部分品として使用しうる状態になつたものと解せられるから、右ゴルフシヤフトは物品税法上の課税物件たるゴルフ用具の部分品として右の段階において製造されたものと認めるのが相当である。もつとも証拠によれば右既メツキのゴルフシヤフトはその後被告会社において更に曲げの検査、強度試験メツキの厚みの検査等各種の工程を経てラベルを貼り包装梱包されて移出されたことを認めるに足りるが、これらは単に販売の手段に過ぎず新たな課税物件を創造するものと解せられない。然らば被告会社は原材料である未メツキのゴルフシヤフトを旭化学工業所に供給してこれがメツキを委託し右旭化学工業所において右シヤフトのメツキ加工を完成したものであるから、被告会社は当然に旭化学工業所における右シヤフトの製造につき自ら製造者と看做され、物品税法第一五条により所轄税務署に対しその旨の申告をしなければならず、これを怠つた場合には特段の事情のない限り同法第一八条第一項第一号により処罰を受けなければならないことは当然で、即ち無申告製造の責任を負うものは製造者とみなされた被告人等である。

所論は昭和三四年四月までは当該税務署より被告会社に対し、メツキ工場である前記旭化学工業所を委託者である被告会社の課税物品製造場として申告せよという何等の指示も指導もしなかつたのであつて、被告会社が旭メツキ工場を製造場として所定の申告をなさなかつたことについては従来の経緯に照し申告不要の確信を有していたものであり、またそのように信ずべき相当の理由があつたものである旨弁疏する。然しながら物品税法は同法第六条第四項(改正法は第三項)に該当する事実のある場合には委託者が製造者と看做されること、製造者は製造を開始しようとする場合には所轄税務署に対しその旨の開始申告をなさなければならないことを規定しているのであるから、被告会社および被告人が仮に右申告をしなければならないことを知らなかつたとしてもそれは法の不知に過ぎず、これをもつて刑責を免れる理由とはならない。また証拠によれば通例の場合所轄税務署より当該人に対しいわゆる「看做し製造」に該当することを通知し所定の手続を採らせるようにしている事実を認めることができるけれども、それはこの看做し製造の適用要件に合致するか否かの判定は原料、労務、資金等の供給の程度によつて一様でないため、委託者においてあらかじめ看做製造に該当するか否かの判断をなすことが困難な場合が多く、事後において税金追徴の問題を生ずる等実際上の適用につき混乱を招く虞のあることに鑑みてとられる事実上の運用に過ぎないところ、本件問題になつているゴルフ用シヤフトについては委託者受託者共謀の上共に製造申告をしていないのであり、かつ前記認定(五)の如く所謂裏分は正規の帳簿に記載しないのは勿論、その存在を隠蔽する方法を採つているのであつて、当初より製造申告をなす意思は認められないのであるから、仮に所論のように所轄税務署の指導が適切でなかつたとしても、(この点については証拠によれば当時の税務署において被告会社等の業態の把握が十分でなかつたものと認められる。)これをもつて申告することを知らなかつたことにつき相当の理由があつたものとも税務署の指導の誤りの為製造開始申告をしないことについて故意過失のなかつたものともすることはできない。これらの点の所論はすべて理由がない。

第二、原判決判示第二の一の事実に関するもの。

本件発覚および捜査の経緯を原判決挙示の証拠により、更に当審事実取調の結果を参酌して案ずるのに、次の事実を各認めることができこれを覆すに足りる証拠はない。即ち右証拠によれば、

(一)  税務官署において他の事件の調査に基き被告会社に物品税逋脱の事実のある疑をいだき調査をなすに至つたが会社帳簿等の調査をもつてしてはその実情が判明しなかつたこと、

(二)  そのうち、被告会社が新宿駅より鉄道により品物を関西方面の顧客に送つていることが判り、同駅について調査した結果被告会社は関西方面の顧客に対し高須運送店の手を通じて新宿駅より鉄道によりゴルフ用シヤフトを送付していたことが判明したこと、

(三)  よつて右高須運送店について調査したところ、高須運送店は被告会社の依頼により品物の輸送を鉄道に委託するに当り、被告会社の指示により依頼品のうちある物は発送人を島田製作所とし、あるものは発送人を荷受人本人とする形式を採り、かつ同運送店においては発送人を荷受人本人とした分を登載した帳簿と、これを除外した帳簿の二種の帳簿が作製されている事実が判明したこと、

(四)  この事実に関し被告人島田三郎について取調べた結果、右発送に当つて発送人を島田製作所とした分は所轄税務署に対し正式に移出申告をなし、かつ未納税移出承認申告をなしたものであるが(已に説明した表分と称していたもの)、発送人を荷受人本人としたものは所轄税務署に対し未納税移出承認申告をなさないのは勿論、正式の移出申告も為さず従つて納税をもしていないものであること(已に説明した裏分と称したもの)、ならびにこの事実を隠匿するため会社備付の正式帳簿には右表分のみを記載し、裏分については何等の記載をもなさず、代金の決済もできるだけ現金にするなど右裏分の存在を明らかにするものは一切残さぬよう処置したことが判明した。よつて税務当局においては判明した右新宿駅より発送された表分および裏分の荷物の重量を明らかにし、これに基き島田三郎について裏分として送られたものの本数、品種別(ウツド、アイアン、パターン)を調査する一方、送り先につきその送付された事実の有無本数(但し増子輝のみはその品種別をも含む)についてその裏付調査をしたこと、

(五)  右の如く裏分として鉄道により運送したものについて尋ねられた結果、被告人島田三郎は右裏分の荷物の重量とこれと同じ頃に発送せられた表分の重量、本数、および種別(その内容は表分であるから帳簿等により明らかと認められる。)と対比し、かつ記憶を喚起して右裏分についてもその本数種別を定める裏分の一覧表を作成したものであること、(この認定に反する原審並に当審における被告人の供述は措信しない。)

(六)  税務当局は右新宿駅発送以外の分のシヤフトについても被告人の供述を求めると共に移出先相手方についてこれが裏付捜査をなし、その裏分の本数種別を明らかにしたものであること、

(七)  被告会社がかかる方法を採るに至つた理由は、被告会社より正規に未納税承認申告をするときは、移出先である得意先において右未納税分に相当する分だけ課税せられ、延いてその製品の販売価格がそれだけ高くなり、他との販売競争において不利を蒙るという理由で得意先から要望されたためであり、被告会社においてもこの得意先の要求を退けることにより顧客の減少することを虞れたためであること、

(八)  従つて被告人等においては右裏分につき終局的には物品税の逋脱を行うものであることを十分知つていたこと、

の各事実を認めることができ従つて原判示第二の一に関する事実はすべてその証明は十分である。

そこで所論第三点法令違背の主張について按ずるに、

所論は本件シヤフトの犯則数量、品名については被告人島田三郎の自白が唯一の証拠であつて、これを補強すべき証拠はないから、これにより判示事実を認め被告人を有罪とした原判決は憲法第三八条に違反し破棄を免れないと主張する。

なる程原判決の拳示する関係証拠を精査しても判示違反シヤフトの種別、その数量につき被告人の供述を直接裏付ける証拠のないことは誠に所論のとおりである。然しながら自白を補強すべき証拠は必しも自白にかかる犯罪構成事実の全部にわたつて直接もれなくこれを裏付けることを要しないのであつて、自白にかかる事実の真実性を保障し得るものであれば足りるものと解すべきものである。これを本件について見るのに被告人島田三郎が本件犯則シヤフトの種別その数量を認めるに至つたか経緯は前に証拠に基き認定したとおりであるところ、本件の如く当初より物品税を逋脱する目的で、物品を移出しながら正式の帳簿にはことさらに記載せず、他に右事実を記載した何等の書類も存在せず、かつ相手方においても同一の目的の下にいわゆる裏分についてはこれが存在を証明する帳簿類の作成をことさらにしていないうな場合にあつては、右に記述したうな調査方法を取る以外、他に方法は認められないのでこの方法は適切妥当な調査方法であり、右の如く新宿駅よりいわゆる表分と裏分のシヤフトが送付されていることが明白であつて、右表分については帳簿類によりその種別数量を明らにすることができるのであるがこの表分のものと対比し記憶を喚起した上被告人が裏分の数量種別を定めている以上、前記の如き事情により認めうる証拠は被告人の自白の真実性を保障するに十分であるから被告人の自白の補強証拠がないとする所論は理由がない。

所論第六点、第七点の一法令違背の主張について

所論は被告人には脱税の犯意がない。従つて本件をもつて物品税法第一九条第一号の課税申告を怠り又は詐つた場合として処罰するは格別、これを同法第一八条の脱税犯に該当するものとした原判決は法の解釈適用を誤つたものであるとし、その理由を縷々陳弁する。然しながら被告会社は看做製造者として原判決判示シヤフトを移出するに当つて所定の原材料免税承認を受けない限り法の定める税を納めなければならないのであつて、本件において脱税の意思があるというためには、被告会社が右原材料免税承認を受けていないこと、しかも法の定める税金を納めないことの認識、および客観的に不正と認められる右脱税になる行為そのものに対する認識の存在をもつて足り、課税価額に相当する金員を着服するとかこれを利得する等所論のような事実の存在を認識することを要するものではないところ、被告会社等に右説明の脱税の認識のあつたことは証拠上明らかであるから、この点の論旨は理由がない。

また物品税法第一九条は同法第一八条の成立しない場合に適用せられる一種の秩序罰規定であるところ、本件は前に証拠により認めたように被告会社は相手方移出先と相図り脱税の目的で前示いわゆる裏分については全然帳簿に記載しない等特別の取扱いをした案件であつて、かかる場合は物品税法第一八条にいう不正の行為と解するのが相当であるから、被告人等の右行為に同法条を適用し、同法第一九条を適用しなかつた原判決は正当であつて法の解釈適用を誤る等何等法令の違背はない。所論は独自の見解であつて採用することはできない。

所論第五点(法令違背)の三中脱税犯は成立しないとの主張について

(無申告製造犯は成立しない旨の主張の理由のないことは前に説明したとおりである)

所論は被告会社は本件シヤフトにつき、課税標準額の申告をしていないのであるが、右は申告懈怠犯(物品税法第一九条)を構成するのは格別、同法第一八条第一項第二号に定める逋脱犯に該当するいわれはない。殊に被告会社が判示ゴルフクラブの部分品に過ぎないシヤフトを税込み価格で販売することは不可能であり、現に被告会社は本件いわゆる裏分のシヤフトも、正式に原材料免税移出申告をしている表分のシヤフトと同価格をもつて販売していたもので、その間自己において右物品税相当額を取得したことはないのであつて、国家の徴税権を侵害していないから、国家の徴税権の侵害を前提とする逋脱犯を構成するものはないと主張する。

然しながら物品税法第一九条は秩序犯であつて、同条所定の構成要件に該当する行為が更に同法第一八条第一項第二号の構成要件にも該当するときは、前者は後者に吸収され逋脱犯として処罰されるものと解するのが相当であり、かつ本件が右第一八条第一項第二号の構成要件を充足するものであることは前に説明したとおりであるから前段の所論は理由なく、また原材料免税の制度は第二種または第三種の物品、およびこれを使用して更に作られた第二種または第三種の物品の各製造過程毎に課税するときは二重課税を招くこととなり、この弊を避けるために原料または材料として使用した物品に対し課せられた税額を完成品の税額から控除して課する方法は、多種多様の物品を課税対象とする物品税においては、原料または材料として使用した物品が課税済であるか否か、およびその税額の確認等に技術的困難があるため、これらを避ける方法として採られた制度であるから、原材料免税に関する一定の手続を採らなかつた場合は、原料または材料として使用された第二種または第三種の物品に対しては原則通り課税されるのであつて、たとえ右原材料等の製造者において課税額に相当する価額を利得して居らず、かつこれを使用して製造された完成品について物品税が納税されたとしても、その原材料に課せらるべき物品税については免税の適用を受けることはできないものと解すべきであり、原材料につきこれが課税を不正に免れる場合は明らかに国家の徴税権を侵害するものであるから、本件において被告会社が所論のように何等課税額に相当する利得を得ていなかつたことが認められるにしても、原判決判示認定行為が逋脱犯を構成することは明らかであつて、後段所論も理由なく、原判決にはこの点において事実の誤認も法令の違背もない。所論は理由がない。

(その余の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 石井文治 判事 山田鷹之助 判事 渡辺達夫)

弁護人高橋諦の控訴趣意

第四点法令違背の主張

物品税法第六条第四項看做製造の規定(昭和三四年法律第一五〇号による改正後は同法第六条第三項)は、刑罰法規ではない。この規定は、課税物品の委託製造が一定の要件を具備する場合に、委託者が納税義務を負うことを定めたのみであつて、刑事責任までも擬制することの根拠とはならぬ。刑罰は犯罪の実行々為に課するものであつて、明文の根拠がない限り実行者に非ざる他人に刑罰を課することはできない筈である。これは罪刑法定主義の原則上当然のことで、憲法第三条、同第三九条、同第八九条に照らし言うまでもないことである。

一 公訴事実第一の(一)無申告製造犯について

シヤフトの素材にメツキ加工をすることが課税物品の製造に当るとすれば、その実行々為をしたものは旭メツキ工場こと清水巌であつて、被告会社並に被告人が実行々為に直接加工していないことは言うまでもない。

被告会社並に被告人としては自己の行為について刑罰を課せられることがあつても、他人の行為について刑事責任を課せらるべき理由はない。

本件の場合実行々為者たる旭メツキ工場清水巌の刑事責任は不問とされているが、検察官は実行々為者たる清水巌の刑事責任が課税物品の製造委託者たる被告人島田三郎に転嫁されて、実行々為者は刑事上無責任と解しているものと思はれる。このような考え方は刑事責任の本質に反し、刑法理論を無視した解釈といはなければならぬ。法人とその代表者との両罰規定の如き、或は使用人の行為に対する営業主処罰規定の如き明文の根拠がある場合の外は、他人の行為につき刑事責任を課せられることは絶対にない筈である。物品税法には課税物品の製造委託者を製造行為者と同列に処罰する根拠となるべき規定はない。まして製造行為者の刑事責任が製造委託者に転嫁されて、製造行為者は刑事責任を負はないという趣旨の規定はなく、そのような刑罰の本質に反する規定がないことは当然である。

第五点法令違背の主張

一 無申告製造犯は成立しない。

(一) 被告会社は現社長の父島田辰次郎が終戦直後から現在の本店所在地において、ゴルフ用又はスキーストツク用のシヤフト製造業を個人営業として開始したものを、昭和三二年に株式会社組織に変更したものである。被告会社は個人営業時代から現在に至るまでメツキ加工設備はないので、シヤフトのメツキ加工は開業以来引続き外註によつていたのである。

(二) 昭和三四年三月までは、被告会社に対して、メツキ工場を委託者たる被告会社の課税物品製造場として申告せよという指示も指導もなされたことなく、個人営業の時代から通算して十余年の間メツキの外註加工は公然となされて来たのである。その間、税務官吏は少くとも毎月数回被告会社に臨検し、又は外註先のメツキ工場の検査も屡々行われて来た。それが昭和三四年四月に至り、外註先のメツキ工場を被告会社の課税物品製造場として申告することになつたのは、税務官署の指導によるものであつて、被告会社としては、税務官署の取扱い方針の変更によるものと考えていた。若しメツキ工場を製造工場として申告しないことが違法であるとすれば、昭和三四年三月までの被告会社の製造しメツキ加工したシヤフトは全部無申告製造ということになるから、昭和三四年四月申告書提出の際に、それまでの製造は全部無申告製造とされなければならなかつた筈である。

(三) 昭和三四年四月一日まで被告会社がメツキ工場を課税物品の製造場として申告しなかつたことが、仮に法律の不知乃至誤解によるものであつたとしても、(一)被告会社にはメツキ加工設備はなく、(二)税務官吏は被告会社及びメツキ工場に屡々臨検してメツキ加工外註の事実を詳細知悉していた、(三)被告会社は個人営業時代から十余年の間メツキ加工を外註していたから、その事実は税務官署がこれを承認していたものである。

よつて被告会社が旭メツキ工場を製造場所として申告しなかつたことについて、被告会社としては申告不要の確信を有し、そのように信ずべき相当の事由があるものであるから、無申告製造犯は成立しない。

(四) 或は又島田辰次郎が個人営業を開始したときに、メツキ工場を自己の製造場として申告し、その後会社組織に変更した際は、個人営業を被告会社が承継する届出をして、そのまま営業が承継されたから会社名義の申告書が提出されていないのか、被告会社には記録がないのでその間の事情は判明しない。いずれにしても、なんの疑問を持つこともなく永年の間公然となされてきたことが無申告製造犯に該当するということは思いもよらぬことで、このような形式的な根拠で重大な脱税犯の処罰をされることは如何にも納得し難いことである。

(五) 本件無申告製造犯の起訴が正当だとすれば、被告会社の工場は課税物品たるシヤフトについて絶対に製造場とは言えないことになるから、昭和三四年三月まで被告会社をシヤフトの製造場として製造開始申告をさせ、被告会社から原材料免税申請をさせていた税務官署の取扱いは違法であつたことになる。その理由は、メツキ前のシヤフト素材は未だ課税物品でないし、メツキ加工場から移出されたシヤフトは移出の機会に課税されるべきもので、移出後に同一物品たるシヤフトが再び製造移出される筈はないからである。

したがつて、旭メツキ工場のみが課税物品の製造場となるべきであつて、被告会社の工場は物品税についてなんの関係もないということになる筈である。

(六) 一方検察官の論告要旨(昭和四〇年四月二〇日付第一の四の(三)十枚目表七行目)によると、昭和三三年十月から昭和三四年三月まで(無申告製造犯の期間)は、旭メツキ工場が移出者として被告会社えシヤフトを未納税移出の承認申請によつて移出していたというのであるが、メツキ加工によつて課税物品が完成するというのが本件シヤフトについての起訴の立て前であるから、旭メツキ工場のみが製造場であつて、被告会社は課税品の製造場ではない。シヤフトが課税物品として完成し、その製造場たる旭メツキ工場から移出された後はそのシヤフトに対し、シヤフトとして物品税を課することはない筈だから、それを被告会社に搬入する場合、未納税移出承認申請をするということは意味をなさない。(法第一一条)被告会社がそのシヤフトをゴルフクラブに組立販売するものならば、原材料免税申請手続(法第一二条)をとるべきものであるが、被告会社はそのシヤフトをシヤフトのまま販売するのである。強度試験その他の検査、ラベルの貼付などの仕上げは課税物品の製造ではないというのが公訴のたて前であるから、それは被告会社の工場を課税物品の製造場とは認めないということである。同一物品たるシヤフトがメツキ加工により完成した上、更にもう一度製造されることはあり得ないから、被告会社の工場はシヤフトの製造場ではなく、法第一一条を適用する余地はない。旭メツキ工場から被告会社え未納税移出承認申請をさせて来た税務官署の取扱いを法第一一条に照らしてどのように説明し得るであろうか。被告会社も、旭メツキ工場も永年間正規の手続をして課税物品の製造に従事して来たものと信じているのに無申告製造犯という形式的な犯則事件として重い処罰をされることは当事者として納得し得るものではない。無申告製造犯は文字通り税務署の目をごまかし、或は逃げかくれて脱税するものを処罰する趣旨ではないか。本件の場合を無申告製造犯に結びつけようとすることは牽強付会も甚しく、人権を無視した形式的な処断であつてこのような処罰には何人も承服しないであろう。

二 製造開始申告について故意過失はない

本件シヤフトの製造者はあくまで被告会社であつて旭メツキ工場は単にメツキ加工を委託されたのみである。メツキ加工の委託の実情は、旭メツキ工場の自動車がメツキ加工済のシヤフトを被告会社工場え戻入し、次の素材を受取つて帰ることが繰り返えされて流れ作業的に続いていたのである。昭和三四年四月一日以降は被告会社工場から旭メツキ工場えの未納税包括移出承認がなされたのであるが、それ以前は逆に旭メツキ工場から被告会社えの未納税移出承認がなされていたもののようである。しかしこの間に取引乃至事実上のシヤフトの受払いは全く同一であつてなんらの差異もなく、製造開始申告とか未納税移出承認申請とかいう手続は凡て税務署の指導にもとづいて被告会社は税務署の指示するとおりの手続をして来たものである。

昭和三四年三月以降は旭メツキ工場から被告会社えシヤフトの未納税移出申告をして来たのであるから、旭メツキ工場が課税物品の製造開始申告をしていたことは明らかである。旭メツキ工場がシヤフトの製造開始申告をなし、未納税移出申告をしたのは凡て被告会社が税務署の指導を受けて、旭メツキ工場にそのような申告手続をさせたものである。

旭メツキ工場が課税物品の製造開始申告をしたのは被告会社の委託にもとづくシヤフトのメツキ加工をするということであるから、それはとりも直さず被告会社のために課税品を製造するということである。この場合、被告会社からも旭メツキに対するシヤフトの加工委託につき、その場所を被告会社の課税物品製造場として申告すべきであつたとすれば、旭メツキ工場と同時に被告会社からも、双方から製造開始申告を提出させるように所轄税務署が当初から指導すべきであつたものと云はなければならぬ。昭和三四年三月以前の製造開始申告が不備であつたとすれば、それは税務署の指導が誤つていたもので、被告会社が故意に申告書の提出をしなかつたということではない。このように形式的な根拠で脱税犯の重刑を課せられることは承服し難い処である。

三 脱税犯並にこれと同列の無申告製造犯は成立しない。

本件犯則事件のうち、シヤフトに関する公訴事実第一の(一)無申告製造犯、同(二)脱税犯の事実は、元来、原材料免税申請書を提出せず、税抜き価格でシヤフトを得意先に販売したということなのであるから脱税犯には該当しない。脱税犯とは税金を着服するか、又はそれと同様の利得をして国の課税権を実質的に浸害するものを言うのである。本件シヤフトに関する公訴事実は全部法第一二条一項所定、第二種の物品(ゴルフクラブ)の製造の用に供する第二種の物品(シヤフト)にして………(政府の承認を受け)製造場より移出………するものに付ては物品税を免除する、という原材料免税規定に該当するシヤフトの移出なのであるが、政府の承認を受けるための原材料免税承認申請書を提出しなかつたということなのである。

そこで政府の承認を受けない以上は、法第四条にもとづき被告会社が製造者として法第八条第一項に定める課税標準の申告をしなければならぬということになる。しかるに被告会社は法第八条第一項所定の課税標準の申告をしていないのであるが、それは脱税ではない。物品税法第一九条第一号申告懈怠犯の規定は左のとおりである。

法第一九条左の各号の一に該当する者は一〇万円以下の罰金又は科料に処す。

一 第八条第一項若くは第二項………の規定による申告を怠り又は詐りたる者

(この規定は昭和三四年法律第一五〇号による改正の前後を通じて変つていない)

この規定によれば課税標準の申告を怠り、若くは詐りたる者は申告懈怠犯として処罰されることになる。申告を詐りというのは事実と異なることを知つて過少の申告をすることをいうのであるから、申告義務があることを知りながら過少の申告をなし、又は申告しないというのはこの規定に該当することになる。申告懈怠犯と、脱税犯とは刑の軽重に顕著な違いがあるから、脱税犯は実質的に国の課税権を侵害する場合に限られるものと解すべきである。無申告製造犯も脱税犯と同列に処罰されるものは、同様に脱税の実質を持つものに限られると解すべきである。被告会社は、ゴルフクラブを製造する業者に対して、その部分品たるシヤフトを凡て税抜き価格で販売したのである。物品税は消費者負担がそのたて前である(法第三条の三)から、未だゴルフ用具にならずその部分品に過ぎないシヤフトを税込み価格で販売することは不可能であつて、被告会社はシヤフトの販売につき脱税をする機会はあり得ないのである。

被告会社が原材料免税申請書を提出せずシヤフトを販売したことは、延いて課税標準の申告懈怠犯に該当することは免れないとしても、税抜き価格で販売したものであるから、脱税犯又はそれと同列の無申告製造犯は成立しない。

第六点法令違背の主張

シヤフトについては脱税の犯意がない。

公訴事実第一の(二)は、法第八条第一項による課税標準の申告書を提出しないで、シヤフトをパワーゴルフ製作所外三三カ所に移出したという事実である。この事実は、昭和三四年四月一日から昭和三五年八月八日までの間のものであるから、昭和三四年五月一日施行された物品税の改正新法(昭和三四年法律第一五〇号)が適用される事実である(但し昭和三四年四月分のみは旧法適用)

そこでこの事実は脱税犯として起訴されているのであるが、右改正新法(昭和三四年法律第一五〇号)に照らし、脱税犯には該当しないものといわなければならぬ。

(一) 課税標準の申告書を提出しないことは、左記物品税法第一九条第一号に該当することが文理上明白である。

法第一九条(申告の懈怠等)左の各号の一に該当する者は一〇万円以下の罰金又は科料に処す。

一 第八条第一項……の規定による申告を怠り又は詐りたる者

右規定に申告を詐りというのは、事実と違うことを意識して敢えて過少の申告をすること、又はその逆であるから申告を怠りというのも同様に事実を意識しながら敢えて由告書を提出しない場合を云うものと解釈することができる。

(二) 次に課税標準の申告書を提出しないこと、又は過少の申告をすることは、即ち左記法第一八条の脱税犯に該当することになるであろうか。

法第一八条(逋脱)左の各号の一に該当する者は五年以下の懲役若くは五〇万円以下の罰金に処し又はこれを併科す。

二 詐欺その他不正の行為を以て物品税を逋脱し、又はその逋脱を図りたる者

(三) 右(一)の申告懈怠犯と(二)の脱税犯との関係乃至区分はどのように考えることが正当であろうか。

申告を怠り又は詐ることは、即ち申告しない部分の納税をしないということである。申告を詐り、過少の申告をしながら申告以上の過大な納税をして、確実に納税義務を履行することは考えられないから、通常の場合、申告の懈怠は即ち脱税という関係になるであろう。

(四) 本件の場合、シヤフトは未だゴルフ用具ではなくその部分品に過ぎないもので、これを需要者の身長、体重等に応じ適当の長さに切断してヘツドを接合し、グリツプを加工してゴルフクラブに組立てなければ何の役にも立たないのである。被告会社は、シヤフトを製作販売することが本来の事業であつて、シヤフトの販売は物品税法第一二条の原材料免税申請書を提出して、得意先にゴルフクラブの部分品たるシヤフトを送ることが本来の取引手続なのである。したがつて、被告会社が物品税を徴収納付することは極めて例外の場合を除き殆どないと云つてもよい。

(五) 原材料免税申請の手続をしないでシヤフトを得意先に移出販売することは、昭和三七年法律第四八号の改正物品税法の規定によれば、申告懈怠犯(法第四五条)には該当するが、逋脱犯(法第四四条)(脱税犯)には該当しないことが左記法条に照らし明文上極めて明白である。

法第四五条次の各号の一に該当する者は一〇万円以下の罰金又は科料に処する。

三 法第二九条第一項又は第二項の規定による申告書の提出を怠つた者

法第二九条第二項第二種又は第三種の物品の製造者はその製造場毎に毎月(……)政令で定めるところにより次に掲げる事項を記載した申告書を翌月末日までにその製造場の所在地所轄税務署長に提出しなければならない。

一、その月中において当該製造場において製造した第二種又は第三種の課税物品で当該製造場から移出したものに係る次に掲げる事項

イ 第二種の課税物品については類別及び号別ごとの品名並びに品名毎の数量及び課税標準たる金額

ロ 第三種の課税物品については……

二、第一七条……の規定による物品税の免除を受けようとする場合には前号に規定する第二種又は第三種の課税物品のうち、これらの規定の適用を受けようとするものに係る前号イ又はロに掲げる事項

三、第二種の課税物品については類別ごとに第一号に規定する第二種の課税物品についての課税標準たる金額を合計した金額から、それぞれ当該類別ごとに前号に規定する第二種の課税物品についての課税標準たる金額を合計した金額を控除した金額(……)

四、以下省略

法第一七条(1) 第二種又は第三種の物品の製造者がその製造した第二種又は第三種の課税物品で次の各号に掲げる物品に該当するものを当該製造に係る製造場から当該各号に掲げる場所え移出する場合には当該移出に係る物品税を免除する。

一 第二種又は第三種の物品の製造者が当該第二種又は第三種の物品の材料又は原料とするための物品。当該第二種又は第三種の物品の製造場

(六) 右(五)記載の現行法を改正前の旧法(昭和三四年法律第一五〇号)と対照してみると、旧法時においても原材料免税申請の手続を怠つたものは、その結果文理上は課税標準申告を怠つたものにも当ることにはなるが、当時の法第一八条の脱税犯には該当しなかつたものと考えることが正当ではないか。

脱税犯は素朴な基本概念として税金を着服し、国の課税権を実質的に侵害するから重く処罰されるものと云つてよいであろう。課税物品の消費者から受領した税金を着服し利得するか、又はそれと同様な利得を得て、それが国の課税権を直接侵害することになるかどうかという点が脱税犯の基本的な要素であることは疑いない処である。

(七) 本件の場合、被告会社はシヤフトを無申告で販売した事実があることを全く否認することはできないが、本件において起訴されたシヤフトの所謂裏取引というのは、単に原材料免税申請(法第一二条)書を税務署長に提出しなかつたというだけのことであつて、物品税相当額を着服したということではないのである。繰返し述べているとおり被告会社はシヤフトを製造販売することが本業であつて、シヤフトはゴルフクラブの部分品であるから、これを運動具店に販売するには、原材料免税承認申請書を税務署長に提出しなければならないことに定められている。ところが買受人側たる得意先は、その一部を裏取引で原材料免税承認申請書に記載せず、正規の取引(原材料免税承認申請により相手方の買受数量が明示される)と裏取引とを抱き合せにしなければシヤフトを買つてくれないので、被告会社は相手方の不当な要求に応じなければ営業が成立たないために、シヤフト販売数量の一部を裏取引にしたのである。この場合、販売価格は正規分も裏取引分も同一の税抜き価格であつて、物品税相当額を相手方から受取つたことは絶対にない。得意先がこのシヤフトをゴルフクラブに組立販売するときにはじめて最終需要者から物品税相当額を販売代金に含ませて受取ることになるのであつて、シヤフトを得意先の組立業者に販売する段階で、税込み価格の販売をすることはないといつてよいのである。

(八) 以上の如く、被告会社がシヤフトを正規の手続で販売する場合物品税を実際に受取り納付することは事実上全くないといつてもよいし、シヤフトをゴルフクラブに組立てるには相当の技術を必要とするから、クラブの組立販売業者以外の者にシヤフトを販売することはなく、ゴルフクラブを組立販売する際には、組立業者から当然物品税が徴収されることになるから、シヤフトの販売に当り原材料免税申請書を提出しないことは、物品税の課税秩序を紊り、相手方買受先に脱税の便宜を与える虞のあることは認めざるを得ないとしても、被告会社自身に脱税の事実はなく、自己の脱税とは考えていなかつたのである。

被告会社は、裏取引を原材料免税申請の懈怠犯にはなるかも知れないが、脱税犯になるとは毛頭考えていなかつた。

被告会社が原材料免税申請書を提出せず、税抜きでシヤフトを販売することは税法に違反するとしても、それは単純な申告義務違反で、被告会社自身の脱税犯になるものとは考えられない。前記(一)の法第一九条第一号申告懈怠犯の規定には、申告を怠り又は詐りたる者とあるから、申告申請を懈怠しても、自身が税金を着服する等明らかに脱税というべき不正行為をしない限り、将来シヤフトの買受人たる得意先が脱税するかも知れないという危険を未必的に予見していたとしても、それは脱税犯に該当するものとは考えられない。

このように被告人、被告会社は脱税の事実を認識していないこと、事実上も国の課税権を実質的に侵害し、税金を着服する等の不正行為をしていなかつたことにおいて脱税の犯意はなく、脱税犯は成立しない。

第七点法令違背の主張

一 法第一八条に該当する不正の行為はない

法第一八条第一項第二号には詐欺其の他不正の行為を以て物品税を逋脱し又は其の逋脱を図りたる者とある。起訴状には「所定の帳簿に記載せず」「課税標準申告書を所轄税務署に提出せず」不正行為によつて物品税を逋脱し、とあり、不正行為とは帳簿に記入しないこと、課税標準申告書を提出しないことを指称している。しかし

(一) 帳簿の記載を怠り又は詐ることは、法第二〇条第一号に該当する帳簿犯であり、

(二) 課税標準の申告を怠り又は詐ることは法第一九条第一号に該当する秩序犯である。

法第一八条には詐欺其の他不正行為を以て、と定められているから、所定の帳簿に記入しないこと、課税標準の申告書を提供しないことが、脱税の手段として脱税に結び付くときは、これを不正の行為と云はなければならぬであろう。法第一八条は脱税犯の罰則であるから、脱税ということが根本的の要件事実でなければならぬ。

脱税をしたか、脱税を企図して不正の手段を用いたときは、それが法第一八条に該当することになるというのである。しかし、本件の場合、シヤフトは元来免税とされる物品を税抜き価格(免税価格)で移出するのであるから、移出者たる被告会社が脱税をしようとしたものでもなく、脱税した事実もない。シヤフトの移出について、正規の免税申請手続をしないことが、延いて課税標準申告の懈怠となり、帳簿記入の懈怠になるというまでのことで、脱税の手段として不正の行為をしたものではなく、逆に免税品の移出につき免税申請書を提出しないことが、課税申告を要する結果になるということなのである。

よつて被告会社には、法第一八条に該当する不正の行為はなく、申告及び帳簿に関する懈怠の事実が推認されるとしても、脱税犯には該当しないものである。

(その余の控訴趣意は省略する。)

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